ブータンは野良犬も世界一幸せ?「犬増えすぎ問題」や国家プロジェクトとは?

とにかく伝えたいこと

ブータンには路上で暮らしている犬がたくさんいますが、地域の人たちでお世話をしているので「野良犬」ではなく「地域犬」や「集落犬」と呼ばれています。殺生を嫌うブータンでは地域犬が増えすぎたため、国家プロジェクトとして地域犬への「狂犬病のワクチン接種」と「避妊手術」を実施しました。

ブータンを訪れるとそこら中にいる野良犬の多さに驚くでしょう。

 

路上、家やお店の前、市場のなか、寺院の敷地内などなど、まさにブータンのどこにでも犬がいるという印象です。

そんな路上の犬たちですが、地域の人々から可愛がられている一方で、国が動き出すほどの大きな問題も抱えていました。

 

そこで今回は、「ブータンの路上で暮らす犬たち」について解説していきます。

YouTubeもやってるので、よかったら見てみてください!

 

ブータンの路上で暮らすのは野良犬ではなく地域犬

ブータンでは地域の人々みんなで、路上で暮らす犬のお世話をしています。

そのため、野良犬ではなく「地域犬」、あるいは「集落犬」と呼ばれているんです。

 

地域犬たちは近所の人たちからご飯を与えてもらって暮らしています。

また、悪い人間にいじめられることもなく、ましてや保健所に連れて行かれて処分されることもありません。

そのため、まるで自分たちが食物連鎖の頂点にいるかのように悠々と暮らしています。

ただし、邪魔な場所で寝ていれば退かされ、うるさくしていれば怒られます。

 

人と地域犬が共存するための国家プロジェクトが動く

地域の人からご飯をもらって食べているところ

地域や集落の人々から可愛がられる地域犬たち。

しかしながら、ブータンの人々はそんな地域犬に関する深刻な悩みを抱えていました。

それは「地域犬増えすぎ問題」です。

 

ブータンで増え続けていた地域犬

ブータンは仏教が生活に深く根付いている国。

一般的にブータン人は殺生を嫌います

蚊やハエさえ殺したりしません。

そのため、地域犬たちは日本の犬のように保健所に連れて行かれるということがありません。

 

また、ブータンではご飯の残り物をあげる人や、使わなかった肉の部位や骨をあげる食堂の店主などをよくみかけます。

地域犬たちにご飯をあげるのは、功徳を積む善いおこないの1つと考えられているんです。

お肉屋さんの前にも必ず待機している犬がいます!

 

さらに、ブータンでは犬は来世で人間になると信じられているそうです。

そうしたこともあって、動物のなかでも特に犬は大切に扱われています。

ご飯がもらえて、自由に生きているわけですから、地域犬の数は増え続けていくことになるんですね。

 

国家プロジェクトがスタート

ティンプー中心部の交差点で寝ている犬たち

ブータンは観光事業に力を入れている国。

しかしながら、環境や文化の保護のために入国できる外国人観光客の数は制限されています

ざっくり言えば、お金を持っている人たちに来てほしいんです。

 

そんな外国からの旅行客にとって、決して安くない旅行費用を払ってブータンに来ているのに、夜中に犬にワンワン吠えられたり、狂犬病の犬に咬まれたりしたら溜まったものじゃない。

実際に旅行客からの苦情も多かったそうです。

私が持っている「地球の歩き方 ブータン 2018-19」にも、

「ブータンの町には野犬が多いが、狂犬病の注射をしているものは少ない」

という記述があります。

2023年時点で最新版が「2018-19」でした。

 

政府としても、ブータンで暮らす人々、犬、外国から訪れてくれる旅行客の安全のために、「地域犬増えすぎ問題」に対処する必要に迫られました。

そして、人道的・宗教的に問題ない解決策を模索したブータン政府は、2009年に動物慈善団体 「Humane Society International (HSI)」と協力して、地域犬への「狂犬病ワクチン接種」と「避妊手術」をスタートしています。

 

「ワクチン接種」&「避妊手術」を100%達成と宣言

2009年に地域犬への国家的プロジェクトが開始されて以来、ブータンでは約15年間で15万頭以上の地域犬にワクチン接種と避妊手術を実施

さらに、約3.2万頭のペット犬にマイクロチップを装着してきました。

地域犬を捕獲するために多くのボランティアも参加したそうです。

 

その結果、ブータンは2023年10月に世界で初めて地域犬(野良犬)のワクチン接種と避妊手術を100%達成したと宣言しました。

 

それだけではなく、HISの協力の下、ブータンの人々へ犬についての教育活動もおこなってきました。

今後もブータンで暮らす人々と犬のより良い関係が築かれていくことでしょう。

外国人旅行客にとっても安心ですね!

 

左耳の先っぽが欠けた地域犬たち

左耳の先っぽがカットされた犬

ブータンの地域犬を眺めていると、左の耳が少し欠けているのに気がつきます。

これは他の犬にかじられたわけでも、人間にいじめられたわけでもありません。

 

この左耳のちぎれこそが、ワクチン接種と避妊手術が済んでいる証拠なんです。

そのため、現在ブータンの路上で暮らしている犬たちのすべての左耳は欠けているということになります。

 

明確に飼い主のいる犬は手術済みでもカットされていないみたいですが、ブータンを訪れたときにもし左耳が欠けていない犬を見かけたら念のため近寄らないようにしましょう

左耳がカットされていないのはペット犬だから?

 

ブータンの路上から地域犬はいなくなるのか?

ブータン政府は地域犬のワクチン接種と避妊手術を100%達成したと宣言しました。

ここで、1つ疑問が残ります。

将来的にブータンから地域犬はいなくなってしまうのではないか?

 

地域犬がいなくなることはない

結論からすると、地域犬の数は少なくなるが0になることはないと思います。

ジーク・イェーガーの安楽死計画じゃあるまいし。

 

なぜなら、今回の発表では「路上で暮らす犬の全頭数が完全に避妊手術された」とあるだけで、ペットとして飼われている犬たちのすべてが、避妊手術を受けたわけではないからです。

避妊手術を受けさせたくない飼い主もいるはず。

 

ブータンのペット犬と地域犬(野良犬)は、見た目的には非常にわかりにくいところがあります。

というのも、飼っている犬が幼いときは部屋でお世話をすることもあるが、大きくなると外で飼うということがほとんどだからです。

 

外で放し飼いされている犬たちは近所をウロウロお散歩します。

はたから見たら飼い犬なのか地域犬なのかわかりません

首輪をしてる犬は飼い犬だとわかります。

首輪をしているのでペット犬

 

こうしたことから今回の発表を信じるならば、いずれ完全な野良犬はいなくなるが、明確な飼い主がいる犬が半地域犬として路上に残り続けるでしょう。

 

野良犬には国境がないゆえの問題

北側は中国、南・西・東側はインドと国境を接しているブータン。

外国人が入国するにはビザが必要ですが、当然、野良犬にはそんなものはありません。

 

野良犬に国境はないので、ワクチン接種&避妊手術をおこなっていない犬が外から来ることが考えられます。

中国との国境を接する北側はヒマラヤ山脈の山岳地帯ですが、インドと国境を接する南・西・東側では野良犬が入ってくることもあるでしょう。

インドは野良犬大国!

実際に過去には、インドから狂犬病に感染した犬が多数入ってきたことで、ブータン人の間でも狂犬病による犠牲者が増えたことがあるそうです。

 

さすがに、今後観光で訪れるようなティンプーやパロなどの街で狂犬病が発生したり、地域犬が増えすぎることはないと思います。

しかし、インドとの国境に近い集落では、地域犬に関する問題が起きる可能性はあるのではないでしょうか。

 

まとめ:世界一幸せなブータンの野良犬たち

ブータンの路上で暮らす犬たちについて解説してきましたが、いかがでしたでしょうか?

ここで、今回の記事の重要な点をおさらいしておきましょう。

この記事のポイント

  • ブータンの路上で暮らす犬は「野良犬」ではなく、「地域犬」や「集落犬」と呼ばれている
  • 地域犬は地域の人々がご飯を与え、お世話をしている
  • 殺生を嫌うブータンでは地域犬が増えすぎて問題になっていた
  • 路上でうろつき、夜中に吠える犬に対して、不満に思う外国人旅行客も多くいた
  • 2009年に政府は地域犬への「狂犬病のワクチン接種」と「避妊手術」をスタート
  • 2023年10月にすべての地域犬へのワクチン接種と避妊手術の完了を宣言
  • ワクチン接種と避妊手術を済ませた地域犬は左耳の先がカットされている

 

今回のプロジェクトのおかげで、獣医さんのワクチン接種と避妊手術の技術が向上しているそうです。

また、人々の犬へのワクチン接種と避妊手術に対する考え方も変わってきているといいます。

 

もしかしたら、ブータン国民が世界で1番幸せとされていたように、ブータンの路上で暮らす犬たちは世界で1番幸せな野良犬なのかもしれません

ただし、ブータンで暮らす犬がワクチン接種しているからといって、不用意に近づくことはしないようにしましょう。

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